Top Photo:Varvara Uhlik, Sunshine, How Are You?, 2023-2024
Lula Japan がメディアパートナーを務める、日本初のヨーロッパの写真祭「SEEEU ヨーロッパ写真月間 2025」が、11月23日(日・祝)まで、東京都内の屋内・屋外会場12箇所(港区、渋谷区、世田谷区、目黒区、新宿区)にて開催中。 Lula Japan Webでは、公共空間である会場と相互作用を生み出す多種多様な展示から、注目の5コンテンツをレポート。 写真という言語で語られる、ヨーロッパの芸術家たちのメッセージを受け取って。
ウクライナ出身のヴィジュアルアーティスト Varvara Uhlikによる展示「Sunshine, How Are You?」が、田町センタービル屋外部にて開催中。 1997年ウクライナ・ドニプロに生まれ、現在はロンドンを拠点とするVarvara Uhlik。 個人的な記憶と東ウクライナの風景に根差し、ポスト・ソビエト的アイデンティティーが抱える複雑さを探求する。 写真、映像、彫刻、インスタレーションなどさまざまなメディアに及ぶ作品は、断片化した記憶や失われた地理を繋ぎ合わせる「デジタル・アーカイブ」という手法を中心的に採用。 世代間のトラウマや文化的記憶、そしてロシア帝国主義が個人と東欧社会全体に落とした影といった主題を視覚化している。 2014年のクリミア占領以降、そして現在進行中の全面戦争の最中において、彼女と故郷、人々の繋がりは、家族アルバムやインターネット上の断片、ピクセル化された残像を通じてのみ維持される。 曖昧な記憶と想像の双方を織り交ぜて再構築されるヴィジュアル・ナラティブは、デジタル記録の「永続性」と、それが示す「不在」との緊張関係に向き合いながら、帰属と喪失をめぐる繊細な省察を促す。 今回は、毎年クリミア半島に住む親戚のもとへ家族旅行をするなど、ソビエト時代の名残が残る遊具や食卓のある風景の中で過ごした彼女の幼少期が再構築された作品を展示。 ビル群の狭間に立ち現れるキャッチーで鮮やかな写真群は、行き交う人々の足を止める。 ウクライナの新年やクリミアでの休暇を再現したイメージの中で、同地の文化とその背景にある歴史、そして失われたものに対する痛みが滲み出る。
イタリアの写真家 Claudia Fuggettiによる展示「Metamorphosis」が、田町センタービル ピアタ屋内部にて開催中。 1993年、イタリア・タラントに生まれ、国内外で活躍するClaudia Fuggett。 「森や山、川などの自然、動植物たちを私たち人類と同じように『生きている存在』として感じ取る力を失うことは、環境危機の兆候である」という生態学哲学者の思想をもとに作品を制作する。 風景写真に重ねられた大胆な色彩は、景色そのものに介入し、異世界にも見える光景が生み出される。 その鮮やかな融合は、厳しい環境の中でも適応し、再生し、自らを守るといった、自然が持つしなやかな生命力を表現。 同時に、人間の存在は儚く有限であり、自然が本来持つ進化と変容の力に及ばないことも示唆している。 ショッピングモールの導線に点在する神秘的な写真群。 その数々は、大きな力によって生かされている「生きもの」として畏怖されるべき、能動的な自然の存在を直観的に知らしめる。 夢幻的に描き出された植物や動物が、人間の力の届かないところにある圧倒的な美とエネルギーを体現する。
ハンガリー・ブダペストのアーティスト Anna Tihanyiの展示「BUDAPEST A-Z」が、Ginzan Coffee 2にて開催中。 1979年に生まれ、ブダペストを拠点に活動するファインアートの写真家 Anna Tihanyi。 女性の自己やアイデンティティー、記憶の再構築をテーマにした作品群で知られ、Aesthetica Magazineでは「影響力のある女性写真家の1人」と評されている。 映画的な演出を取り入れた景色を構築する、視覚的な物語性のある表現を通じて、現在は家族の継承などをテーマとした新たなプロジェクトに取り組んでいる。 幼少期に子ども向け百科事典「Ablak-Zsiráf(窓とキリン)」に親しみ、この本から世界の成り立ちを学び始めた彼女。 本展では、20世紀後半のヨーロッパ、そして自国ハンガリーの変動を自身の人間としての成長や変化と重ね、本書を題材としたコラージュ作品が展開される。 古い印刷物や写真によって個人と他者の経験や記憶が組み合わされ、演劇的で緻密な構成を有するヴィジュアル。 過ぎ去った時代のブダペストを描きつつ、自らのアイデンティティーも探りながら、人間の心の奥に潜む不安や欲望と社会の関係を炙り出す。 比較的小さく多様な作品群は路地に佇むカフェ店内に幾枚も並べられ、全体を通して大きなナラティブを持つように見える。 一見奇妙なコラージュは時間と共に目になじみ、鑑賞者を物語の中へと誘っていく。
スペイン出身のヴィジュアルアーティスト Francisco Gonzalez Camachoによる展示「Reverting」が、国連大学ギャラリーにて開催中。 1990年スペインに生まれ、現在フィンランドを拠点に活動するFrancisco Gonzalez Camachoは、北欧の自然を中心テーマに据えるヴィジュアルアーティスト。 写真とグラフィック印刷技法を織り交ぜたプロセス重視のアプローチを通して、物質性、移民、風景と自己の繋がりといった主題を探求している。 彼は「美しい自然を持つ」と評されるアイスランド・レイキャビクに滞在した際、その理想化されたイメージが揺らぐほど、都市化や廃棄物の問題、環境破壊といった観光の弊害に直面する現場を目撃した。 本展では、多くの観光客が訪れる自然の名所を撮影した写真と、現地の廃材から手作りされたリサイクル紙の組み合わせによってアイスランドの風景を再解釈する。 国際連合大学2階の窓に貼られた抽象的なモノクロームの写真群は、言語化以前に立ち現れる、神秘的かつ不穏なイメージを伝達。 人間による自然介入がもたらす残痕を感覚的に訴えかける。 土地の持つステレオタイプ的な幻想とその向こうにある現実の風景に存在する素材をかけ合わせることで、自然環境の循環を「Reverting(復元、回帰)」、そして可視化している。
スイス出身のアーティスト Tamara Janesによる展示「Copyright Swap」が、HVENにて開催中。 スイス・ベルンを拠点とし、同国にて高い評価を得るアーティスト Tamara Janes。 チューリッヒ、ニューヨーク、そしてバーゼルにて写真を学んだのち、ニューヨークにおけるリサーチ滞在を交えながら精力的に活動してきた。 著作権やオーサーシップ(著作者の著作物に対する責任や貢献の在り方)の問題に取り組むため、ニューヨーク公共図書館で膨大な資料を借り出し、スキャン、収集作業を続けたJanes。 カルチャースポット HVENでは、数年かけてスキャンデータを活用し制作された「Copyright Swap」と題される作品が発表される。 他者の創作物のスキャンデータをデジタルで改変し、自身の作品となる転換点を探った本作。 著作権を専門とする弁護士と協働し、画像が元の状態から離れ、作家のものとなった法的な理由の記載も付されている。 写真やアートの著作権解釈における大きな幅がヴィジュアルを通して提示され、観る者に再考を促進。 カフェスペースを併設する会場では来場者同士の対話も自然と生み出される。
日々の暮らしに溶け込み、感情を掻き立てるイメージ群。 それぞれが有する衝撃が、新たな文脈を創造する。 SEEEU www.seeeu.jp/ 【SEEEU EUROPE PHOTO MONTH TOKYO 2025】 DATE:11月23日(日・祝)まで開催中 PLACE:東京都内各所 WEBSITE:www.seeeu.jp/ 【Varvara Uhlik “Sunshine, How Are You?”】 DATE:11月23日(日・祝)まで開催中 PLACE:田町センタービル 屋外部 ADDRESS:東京都港区芝5-34-7 田町センタービル ADMISSION FREE 【Claudia Fuggetti “Metamorphosis”】 DATE:11月23日(日・祝)まで開催中 TIME:10:00am~7:00pm PLACE:田町センタービル ピアタ 屋内部 ADDRESS:東京都港区芝5-34-7 田町センタービル ピアタ ADMISSION FREE 【Anna Tihanyi “BUDAPEST A-Z”】 DATE:11月23日(日・祝)まで開催中 TIME:1:00pm~9:00pm PLACE:Ginzan Coffee 2 ADDRESS:東京都世田谷区太子堂4-5-34 【Francisco Gonzalez Camacho “Reverting”】 DATE:11月21日(金)まで開催中 ※土曜、日曜休館 TIME:10:00am~5:30pm PLACE:国連大学ギャラリー ADDRESS:東京都渋谷区神宮前5-53-70 UNハウス2階 ADMISSION FREE 【Tamara Janes “Copyright Swap”】 DATE:11月23日(日・祝)まで開催中 TIME:12:00pm~7:00pm ※土曜、日曜は10:00am~7:00pm PLACE:HVEN ADDRESS:東京都目黒区上目黒1-6-10 中目黒高架下
アートと公共空間の境界が溶け合う1ヶ月間
ヨーロッパの今を伝える写真月間
22年かけて集められた、160個の「卵」たち
異業種クリエイターが共作するプロジェクト
冬の装いに遊び心を添えるニットアクセサリー
美の原点を見つめる、現代のエデン
70年を経て蘇る、神話のように純粋な物語
世にも美しい名作たち 04
最新号の内容を紹介
光と影のあわいに宿る「CHROME HEARTS」のアイウェア
世にも美しい名作たち 03
秋冬をプレイフルなカラーで包むマフラー
秋めく季節に迎えたい「Jouete」のジュエリーコレクション
揺れる感情をまとう、センシュアルなジュエリー
小さな雨の日の物語
世にも美しい名作たち 02
ニットに宿る、フリーダ・カーロの揺るぎない美
象徴から解放されたガイアに見る、沈黙の歴史
自然の色彩と感情をまとう、繊細な表情
矛盾から紡ぐ「AKIKOAOKI」の服作り
思い込みが形作る色や形の意味
そばに在り続ける、純白の雪景色
「me ISSEY MIYAKE」が描写する時間
「CHANEL」のもとで響き合う3つの個性の秘密
デザイナー 若林亜希子が「Duality」を紐解く
田中雅也「Duality」のエキシビションをレポート
ポーランドの注目デザイナーが紡ぐ、身にまとう芸術
作品集「Duality」が体現する田中雅也の写真表現
「NARS」が描く甘美なクリエイション
田中雅也による初の写真集「Duality」が「Lula BOOKS」より発売
春光を浴びて色めく杉咲花と「NARS」の多彩な共演
「YOHEI OHNO」が語る、創造の歩み