Seiichi Furuya
色彩豊かに蘇る失われた日常
写真家 古屋誠一の作品集「Our Pocketkamera 1985」が発売中。
東京写真短期大学(現・東京工芸大学)を卒業後、1973年にヨーロッパへと旅立った古屋誠一。
その後、1978年に後に妻となるChristine Gösslerと出会い、1981年には息子の光明・クラウス・古屋が誕生した。
しかし、徐々に精神のバランスを崩し入退院を繰り返していたChristineが、1985年に東ベルリンの自宅上階から身を投げ自ら命を絶ってしまう。
古屋は彼女の死後、遺された手記やポートレートを集成し、「Mémoires」と題したシリーズをライフワークとして発表してきた。
今作は、古屋が自宅の屋根裏部屋で見つけたさまざまな資料をもとに、2019年から着手した写真集プロジェクトの最新版となる1冊。
妻のChristineと息子の光明、古屋自身による写真が収録された。
古屋は、2018年の初めからChristineの遺品を探し出すことを目的に、数十年間も放置していた雑物の山を整理し片付け作業を開始する。
大小さまざまな段ボール箱の中身を手当たり次第に調べていくうちに、白い封筒の束を見つけ、中には1本のフィルムごとに仕分けられたポケットカメラ・フィルムの束が収められていた。
それは1978年の秋に古屋がChristineにプレゼントしたポケットカメラで、何度も中断しながらも、1985年に東ベルリンで自らの命を絶つ直前まで撮り続けた写真たち。
そのすべてのネガフィルムをスキャンし、プリントアウトした古屋の眼前に立ち現れたのは、失われたはずの過去の日々。
画像は息を呑むほど鮮やかで、わずか13×17ミリの茶色いセルロイド上に眠っていた人生物語が、現実のサイズとなって目の前に広がった。
今作には、そんな彼女や当時4歳だった息子の光明が撮影したと思われる日常の断片が、時の流れに沿って解き放たれている。